アスファルト防水は、ビルやマンションの屋上などで古くから採用されている伝統的な防水工法です。
液状のアスファルトを溶かしてシートを貼り重ねる方法や、トーチバーナーであぶって貼り合わせる方法など、耐久性や信頼性が高い施工方法として知られています。
耐用年数が15年以上と長く、大型建築物に向いている点が大きな魅力ですが、施工時に発生する煙や臭いを敬遠する声もあります。
近年はこうしたデメリットを軽減する改良技術も進んでおり、低煙・低臭型アスファルトや遮熱塗料などの導入によって環境に配慮した施工が可能になってきました。
本記事では、アスファルト防水の特徴や工法、具体的な施工手順、そして最新の改良技術までを詳しく解説します。
大規模施設やマンションの屋上などでの採用を検討している方は、ぜひ参考にしていただき、建物に最適な防水工事を実現するための判断材料にしてみてください。
アスファルト防水とは?長年の実績が示す高い防水性能
アスファルト防水は、アスファルトを溶かしてシートを貼り重ねることで防水層を作る工法です。
日本では古くからビルやマンションの屋上を中心に採用されてきました。
アスファルトという素材は温度や気候による変化が比較的少なく、しっかりとした厚みのある防水層を形成しやすいという特性があります。耐用年数も15年以上と長く、定期的なメンテナンス次第ではそれ以上の耐久性を発揮するケースも少なくありません。
アスファルト防水の3つの主要なメリット
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長寿命かつ高い防水効果
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厚みのある防水層を作るため、雨や雪などの侵入をしっかりブロック。
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15年以上の耐用年数が期待でき、長期的なコストパフォーマンスに優れる。
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信頼度が高く、実績が豊富
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昔から大規模建築で多くの採用例があり、施工技術やノウハウが蓄積されている。
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施工業者が豊富に存在し、メンテナンス体制も整っていることが多い。
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維持費用を抑えやすい
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アスファルト自体が安定した物質で劣化しにくく、施工後の大掛かりな修繕頻度を減らせる。
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メンテナンス時にも比較的安価な材料で補修が可能。
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アスファルト防水の信頼性は、社会インフラとしてのビル群や大型施設などを数多く支えてきた歴史からも証明されています。大きな面積をカバーする必要がある場合や、耐用年数を重視する場合に非常に有力な選択肢といえます。
アスファルト防水の工法と施工手順を理解しよう
ひとくちに「アスファルト防水」と言っても、その施工方法には熱工法やトーチ工法、常温工法などが存在します。
いずれの工法でも、下地処理やシートの貼り付け、アスファルトの流布といった大きな流れは共通していますが、使用する道具やシートの種類、施工手順の細部が異なるのが特徴です。
以下では、代表的な工法と一般的な施工手順を紹介します。
アスファルト防水の主な工法
工法名 | 特徴 | 施工方法の概要 | メリット | デメリット |
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熱工法 | 溶かしたアスファルトを流しながらシートを重ね貼り | アスファルトを加熱して液状にし、シートと下地の間に浸透させる方式。 | 厚みのある防水層を形成しやすい | 煙や臭いが発生しやすい 火器の使用が必要 |
トーチ工法 | トーチバーナーでシート裏面と下地をあぶって接着 | アスファルトシートの裏面に熱を加え、下地に貼り付けていく。 | 熱工法よりも施工が簡便 | 多少の煙や臭いが発生 火器使用による安全対策 |
常温工法 | 常温で粘着するシートを使用して貼り付け | 粘着剤付きのアスファルトシートを圧着して貼るため、加熱装置を使わない。 | 火を使わないので安全性が高い | 密着不良が起きないよう下地処理を慎重に行う必要 |
具体的な施工手順の流れ
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下地清掃
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埃や汚れ、コケなどを取り除き、表面を平らにする。
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なぜそうなるのか:下地が汚れていると接着不良の原因となり、雨漏りリスクが増大する。
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下地処理・改修用ドレン設置
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ひび割れがあれば補修し、排水をスムーズにするためドレンを交換・設置する。
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どんな人に向いているか:細かい作業が好きで、正確性を重視する方に向いている。
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プライマーの塗布
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下地とアスファルトシートの密着力を高めるための下塗り材を塗る。
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具体例:トーチ工法でも、プライマーで下地を整えてからシートをあぶって貼り付けることが多い。
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シートの貼り付けとアスファルトの流布・塗布
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熱工法では液状アスファルトを流しながらシートを重ね、トーチ工法ではバーナーでシートをあぶって貼り付ける。
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補足説明:重ね幅や継ぎ目処理を丁寧に行うことで、防水層の一体化を図る。
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トップコートの塗布
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シートの接合部分や表面を保護し、紫外線や熱から守るための塗装を施す。
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なぜそうなるのか:トップコートがあるとアスファルト層が直接劣化しにくくなるため、耐久性が向上する。
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アスファルト防水の改良点と環境面への配慮
アスファルト防水の最大のデメリットとして、施工時に発生する煙や臭いが挙げられます。
特に熱工法はアスファルトを高温で溶かす際に発煙量が多く、近隣住民からのクレームに発展することもあります。
そこで近年は、低煙・低臭型アスファルトの採用や、環境保全釜・電気溶融機による臭いと煙の低減技術が進歩しています。
また、建物の省エネ化が求められる時代背景もあり、遮熱塗料の活用による屋上の温度上昇抑制など、多角的な改良が進んでいます。
最近の主な改良技術とメリット
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低煙低臭型アスファルトの導入
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なぜそうなるのか:施工時の臭いや煙を抑え、近隣からの苦情や健康被害リスクを下げるため。
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どんな人に向いているか:住宅街や商業施設が密集するエリアでの工事、あるいは学校など子供が多い現場。
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環境保全釜や電気溶融機の使用
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具体例:従来のガスバーナーだけでなく、温度管理を自動化して溶融する装置を使うことで、排煙を抑制し作業効率も上がる。
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補足説明:安定した温度制御により、品質面でもバラつきが減るメリットがある。
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遮熱塗料の採用
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なぜそうなるのか:屋上温度を下げ、室内の冷房負荷を軽減するため。
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どんな人に向いているか:夏場の室温対策に困っているオフィスビルやマンション管理組合。
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具体例:アスファルト防水のトップコートに遮熱塗料を塗ることで、気温上昇によるヒートアイランド対策にも貢献。
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アスファルト防水が向いている建物・向いていない建物
アスファルト防水は、大規模施設や高層ビルなど、広い面積の屋上をカバーするのに適していますが、小規模住宅や複雑な形状の屋根などには施工が難しい場合もあります。
防水工法の選択は建物の構造や予算、耐用年数、周囲の環境などを総合的に考慮して決めることが大切です。
アスファルト防水が向いている/向いていないケース
向いているケース | 向いていないケース |
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– 大面積の屋上を持つビルやマンション – 耐用年数が長く、安定した防水効果を求める – メンテナンスコストを抑えたい |
– 狭小住宅や複雑な形状の屋根 – 熱や煙が発生すると近隣トラブルが起きやすい地域 – 施工時の騒音・臭いを極力抑えたい |
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向いているケース:
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大型商業施設や学校など。
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施工時期を選べるため、周囲への影響が少ないタイミングで工事可能な場所。
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向いていないケース:
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住宅街の密集地で、煙や臭いに敏感な近隣住民が多い場合。
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複雑に入り組んだ形状の屋根を持つ住宅や神社仏閣など。
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アスファルト防水施工を成功させるためのポイントと注意点
アスファルト防水は丈夫で長寿命な反面、施工時の手間や安全管理、臭いや煙への対処など、考慮すべき項目がいくつかあります。ここでは、実際にアスファルト防水を行う際に押さえておきたいポイントをまとめました。
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十分な施工スペースと安全対策の確保
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熱工法やトーチ工法では火を使うため、火災リスクがある。周囲に可燃物がないか注意し、消火器を常備する。
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補足説明:大規模建物なら安全エリアを設けやすいが、狭い屋上だと作業動線を十分に考慮しなければならない。
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臭いと煙への配慮
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近隣住民や入居者への事前説明、工期や作業時間帯の調整など、トラブル回避が不可欠。
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具体例:学校や病院などでは、休日や長期休暇を利用して施工するケースも多い。
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下地処理の徹底と適切な勾配確保
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アスファルトがいくらしっかりしていても、下地の凹凸や排水勾配不良があると雨水が溜まり漏水リスクが高まる。
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補足説明:必要に応じてスラブやモルタルを補修し、排水ドレンの設置・交換を行う。
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施工後の定期メンテナンス
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一度施工すれば終わりではなく、数年おきにトップコートの状態や接合部を点検し、劣化が見られたら部分補修を実施。
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なぜそうなるのか:紫外線や温度変化などで経年劣化が進み、放置すると早期の雨漏りにつながる。
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業者選びで気をつけたいポイント
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施工実績や技術力の確認
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アスファルト防水のノウハウが豊富かどうか、施工事例や口コミをチェックする。
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環境対応への意識
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低臭・低煙アスファルトを扱えるか、遮熱塗料の実績はあるかなどを事前に相談。
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保証内容とアフターサービス
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施工後に問題が発生した際の対応や、定期メンテナンス契約の有無を確認する。
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まとめ
アスファルト防水は、液状アスファルトを用いてシートを複数重ねることで、厚みと信頼性の高い防水層を形成する工法として、ビルやマンションなど大規模建築で長年の実績を誇ります。耐用年数が15年以上と長く、一度しっかり施工すればメンテナンス頻度を抑えられるのも大きな利点です。さらに、近年では施工時の煙や臭いを軽減する技術が進歩し、遮熱塗料を組み合わせることで建物の省エネ性能を高めるなど、多方面での改良が行われています。
ポイントのおさらい
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アスファルト防水の特徴
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高い防水効果と耐用年数、歴史に裏付けられた信頼性。
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工法によっては熱を使うため、施工時の煙や臭いが発生しやすい。
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主な工法と施工手順
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熱工法、トーチ工法、常温工法などがあり、下地処理→プライマー→シート貼り付け→アスファルト流布→トップコートが基本的な流れ。
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改良技術と環境配慮
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低煙・低臭型アスファルトや環境保全釜の活用、遮熱塗料の導入で施工環境や居住環境への負荷を低減。
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アスファルト防水が適している建物・向いていない建物
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広い屋上を持つ大型施設やマンションに向いているが、狭小住宅や複雑な形状の屋根には不向きな場合もある。
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施工成功のポイント
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安全対策(火器使用のリスク管理)、下地処理の徹底、臭い・煙対策、定期メンテナンスなどを重視。
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大規模なビルの屋上やマンション管理組合が防水工事を検討している際、アスファルト防水は高い防水性能と長い実績を誇る選択肢となります。
ただし、施工時期や環境への配慮、下地処理の丁寧さといった要素が成功の鍵を握るため、経験豊富な施工業者を選び、工期やメンテナンス計画を十分に話し合ってから着工することが重要です。
もし煙や臭いが気になる場合は、低煙低臭型アスファルトや他の工法の併用を検討するなど、総合的に判断して最適な防水方法を選びましょう。
今後、さらに環境負荷を低減しながら耐久性を向上させる技術が開発される可能性も大いにあります。
アスファルト防水のメリット・デメリットを十分に理解したうえで、建物の特性や予算、周辺環境を考慮した施工計画を立てることで、長期にわたって安心して暮らせる・利用できる空間を実現できるはずです。