エレベーターの安全性を確保するうえで見逃せないのが「ピットの防水処理」です。ピットはエレベーター設備の最下部にあり、漏水・結露・湿気の影響を受けやすいため、防水処理の有無が故障や劣化に直結します。

では、防水処理は法律で義務付けられているのでしょうか?
この記事では、エレベーターピットに関する法的な規定や、実際に求められる防水処理の基準、工事方法、メンテナンス義務について法令と実務の両面から解説します。


【前提知識】エレベーターピットとは何か?なぜ防水が重要なのか?

エレベーターピットは最下部の構造空間。機械やセンサーを守るため、防水性が求められる重要な場所です

エレベーターピット(昇降路の底部)とは、エレベーターの床下にあたる構造空間で、主に以下のような設備が収まっています。

  • バッファー(衝撃吸収装置)

  • センサー類

  • 配管・配線・オイルパン

  • メンテナンス用の作業スペース

この空間に水が浸入すると、電気機器の故障やサビの発生、異臭、カビ、最悪の場合はエレベーターの運行停止につながるため、防水処理は非常に重要です。


【法律と防水の関係】エレベーターピットの防水は法律で義務付けられているのか?

条件によっては義務ではないが、実務では“ほぼ必須”。建築基準法とJIS規格のポイントを押さえよう

結論からいうと、エレベーターピットの防水は、すべてのケースで義務ではありません。
ただし、一定条件下では防水が必要な設計・施工義務が生じます。

法律における主な規定

規定項目 内容
建築基準法第12条第3項 建物の所有者・管理者はエレベーターの定期検査・報告義務がある
昇降機構造規定(国土交通省告示) 昇降路(ピットを含む)が地盤と接している場合、漏水の恐れがある場合は防水処理が必要
JIS A 4301(昇降機の防水に関する基準) エレベーター設置時には、漏水・結露を防止できる構造であることが求められている
昇降機の設置基準(旧厚生省通達など) ピット内には排水設備または防水処理を設けることが望ましい(“望ましい”表現だが、実務では必須)

つまり、昇降路が地盤に接していて、漏水のリスクがある場合は、防水施工をすることが推奨されているだけでなく、実務上は「当然の処置」とされています。


【ピット形状に関する制限】設計時に考慮すべき寸法・形状と法規上の注意点

エレベーターピットの構造は自由ではない。設計時に守るべきルールが法律や設置基準で定められている

エレベーターピットの防水に関連する法規には、構造そのものに関する制限も含まれます。防水設計をする際は、以下の制限を考慮した設計が求められます。

法的・設計上の制約

  • 有効面積・深さの確保が必須
     → ピットはエレベーターの性能に応じた深さ・広さが必要(設置基準により異なる)

  • 基礎フーチング・地中梁などの突出部は設けない
     → 水がたまりやすい形状や凹凸は禁止。清掃・排水の支障になるため

  • ピット内は清掃・排水しやすい構造にする
     → 点検・保守作業が安全に行えることが前提

こうした構造制限は排水性とメンテナンス性の確保につながり、防水性能を発揮させるためにも重要な要素です。


【実際の防水処理方法】法律を満たすだけでなく、実務的にも有効な防水処理とは?

法律だけにとらわれず、安全性・耐久性・施工性を兼ね備えた処置が必要。よく採用される4つの防水処理

ピットの防水処理は、単に「水を止める」だけでなく、継続的なメンテナンス性や構造の耐久性にも配慮する必要があります。

よく使われる防水処理方法

処理内容 詳細説明
止水板の施工 コンクリート打継部(継ぎ目)に金属製の止水板を挟み込み、水の侵入経路を遮断
水膨潤性シーリング材の充填 水分を含むと膨らむ性質のゴム状シーリング材で隙間を埋め、再侵入を防止
コンクリート補修・防水材塗布 ピット床・壁面に専用の浸透系・塗膜系防水材を塗布。構造体ごと水をブロック
排水ポンプの設置 防水処理が不十分な場所には排水用ポンプを設置して、水を速やかに排出させる

防水材の種類や工法は、ピットの構造や築年数、過去の漏水履歴により最適なものが異なるため、信頼できる施工業者の診断が不可欠です。


【定期点検と報告義務】建築基準法第12条による法定検査と管理者の責任とは?

エレベーターの点検は“任意”ではなく“義務”。ピットも含めた定期点検が法律で定められている

建築基準法第12条第3項では、建物の所有者・管理者に対して昇降機(エレベーター)に関する定期検査の義務が明記されています。

法定点検に含まれる項目(一例)

  • 昇降路・ピットの漏水の有無

  • バッファーの機能確認

  • ピット内の清掃・照明の状態

  • 配線・配管の損傷や劣化チェック

これらの検査結果は、年1回、特定行政庁への報告が義務付けられており、未実施の場合は罰則の対象になります。

また、防水処理がされていない・機能していないと指摘された場合、改善命令が出されるケースもあるため注意が必要です。


【まとめ】エレベーターピットの防水処理は、法的にも実務的にも必要不可欠な安全対策

エレベーターピットの防水は、単なる“任意の対策”ではなく、安全性・耐久性・法的義務の観点からも不可欠な工事です。

本記事の要点まとめ

  • ピット防水は法律で一律に義務化されてはいないが、漏水リスクがある場合はほぼ必須

  • 建築基準法やJIS規格で“構造的に漏水しない設計”が求められている

  • 防水工事には、止水板・シーリング・塗布材・排水設備の総合的な対策が必要

  • エレベーターの定期点検・報告義務にはピットも含まれるため、適切な施工が前提

目に見えない場所だからこそ、後回しにされがちなピットの防水対策
しかし、それはエレベーターの安全性や建物の価値を左右する、非常に重要なファクターです。
施工前には、信頼できる防水専門業者や建築士としっかり相談し、法律に則った設計・施工・点検体制を整えましょう。