エレベーターはビルやマンションの快適な移動手段として欠かせない存在です。
中でも、地下に設けられた「エレベーターピット」は、雨水や地下水、結露などの影響を受けやすい重要な設備空間です。
本記事では、エレベーターピットにおける防水工事の種類や、それぞれの工法の特徴、防水モルタルの活用法と注意点について、具体的にわかりやすく解説します。
なぜエレベーターピットの防水が必要なのか?
放置すると故障・腐食・異臭の原因に。防水は機器の寿命を守るために不可欠
エレベーターピットが防水されていない、あるいは防水が劣化していると、以下のようなトラブルを引き起こすリスクがあります。
-
鉄骨・鉄筋のサビ:水が内部構造に浸透することで、建物全体の耐久性が低下
-
バクテリア繁殖による悪臭:湿気と汚れにより、異臭の原因菌が増殖
-
エレベーター機械の故障:湿気により制御盤がショートしたり、部品が腐食したりする
トラブルが発生した場合の修理費用は数十万円〜数百万円にも及び、定期的な点検と予防的防水工事が経済的にも合理的です。
防水モルタルとは?エレベーターピットに使われる理由
モルタルに防水機能を加えた素材。下地と一体化して水の侵入を防ぐ
防水モルタルは、セメントに特殊な防水剤やポリマーを混ぜ込んだ素材で、ピット内壁や床に直接塗布し、水の浸入を防ぐ目的で使用されます。一般的なモルタルと比べ、撥水性や密着性に優れ、コンクリートと一体化することで長期間の防水性能を発揮します。
項目 | 内容 |
---|---|
材料構成 | セメント・骨材+防水添加剤・ポリマー |
施工方法 | コテ・鏝(こて)による手塗り |
適用箇所 | ピットの壁・床・目地部・打ち継ぎ部など |
乾燥時間 | 約24〜48時間(気温や湿度により変動) |
コンクリート面に厚塗りして密着させるため、下地の凹凸や軽度のひび割れ補修を兼ねるケースも多く、機械室の長寿命化に貢献します。
防水モルタル以外にもある!代表的な防水工法の種類と比較
現場環境や漏水の種類に応じて使い分けるのがポイント
エレベーターピットでは、防水モルタルだけでなく、複数の工法を組み合わせて止水性能を高めるのが一般的です。以下に主な工法を表にまとめ、それぞれの特長を紹介します。
工法名 | 特徴・用途例 | 向いているケース |
---|---|---|
防水モルタル | モルタルに防水剤を混ぜ、ピット壁面に塗布。密着性・防水性に優れる。 | 広い面積に均一施工が可能な場合 |
樹脂モルタル | 樹脂を加えて強度・柔軟性を高めたモルタル。ひび割れや凹凸の補修に最適。 | すでにクラックがある場所の下地補修 |
樹脂製止水板 | 基礎梁の打継ぎ部に設置し、水の浸入を物理的に遮断。 | 打継ぎ目や目地など水の侵入口になりやすい部位 |
塗膜防水 | ケイ酸系やポリマー系などを使用し、膜を形成して防水。 | 外周部や立ち上がり部の細部 |
IPH工法 | ひび割れに樹脂を注入し、内部から補強。高圧で内部に止水剤を送り込み硬化。 | 目視できるひび割れが広がっているコンクリート面 |
TACSS工法 | コンクリートの微細な隙間にも薬液を注入して止水。再発防止力に優れる。 | 雨水の染み込みなど微細な水の通り道がある場合 |
ビッグサンGR工法 | 水系エマルジョン型の塗膜防水。湿潤状態でも施工が可能で、においも少ない。 | 湿度の高い地下や居住者のいる建物でも安心 |
漏水の種類(水圧による浸水か、ひび割れによる染み込みか)によって、適切な工法が異なります。調査診断の上、併用するのが効果的です。
防水モルタルを使った施工の流れと注意点
基礎的な施工手順と、仕上がりを左右する重要ポイントを解説
防水モルタルを使用する場合の基本的な工程は以下の通りです。
-
下地処理(清掃・剥離部の除去)
→ ゴミ・油・埃を取り除き、密着性を確保します。 -
下塗り(プライマー塗布)
→ 防水モルタルの接着力を高めるための下地剤を塗布。 -
モルタル塗布(1〜2層)
→ コテやローラーで厚みを出しながら均一に仕上げます。 -
乾燥養生
→ 最低24時間は乾燥させ、十分に硬化させることが重要です。 -
仕上げ(必要に応じてトップコート)
→ 耐候性を高めたい場合や見た目を整える場合に追加施工。
注意点:ひび割れが深い箇所や、ピンホール(気泡による穴)がある場合は、補修用モルタルや注入材を併用する必要があるため、業者選びも重要です。
防水対策を長持ちさせるには?定期点検とメンテナンスのすすめ
1〜2年ごとの点検と早期補修が、防水層の寿命と安全性を守るカギ
防水工事は施工して終わりではありません。防水層は紫外線・雨・地震などの外的要因で徐々に劣化します。特にピット内部は目に見えない場所だからこそ、定期点検で水たまり・剥がれ・クラックを確認することが大切です。
-
目視点検:水たまり、ひび割れ、変色などをチェック
-
ドレン掃除:排水口にゴミや汚れが詰まっていないか確認
-
定期補修:塗膜の剥がれや膨れがある箇所は早めに補修
点検と簡易補修をセットで行う「防水メンテナンス契約」を業者と結んでおくと、コストも抑えられ安心です。
まとめ
エレベーターピットは、水が溜まりやすく、建物の安全に直結する重要な場所です。
その防水対策において、防水モルタルは施工しやすく、下地と一体化する安定した工法として多くの現場で採用されています。
しかし、単体では対応しきれない漏水もあるため、状況に応じて注入工法や止水板との併用が必要です。
専門業者と相談しながら、建物の状態や使用目的に応じた最適な防水対策を講じましょう。